私たちが大切にしていること

野菜の旬、鮮度を大切に

 立冬 元気いっぱいの小松菜

   畑で取れた野菜にそのままかじりつく。私たちが有機栽培の野菜を作り始めた頃、子供たちは畑で取れた人参をその場で一本まるごと食べてしまいました。これが一番美味しい食べ方なのではなかろうか。野菜は鮮度で全然ちがう。私たちは野菜の鮮度やその時期にしか味わえない旨みを大切にしていきたいと思います。また、新鮮な野菜は身体の栄養になるだけではなく、美しいお料理や幸せな時間を演出することもありますね。 本当は、一人ひとりのお客様とコミュニケーションしながら野菜を収穫してもらい、その場で食べてもらいたいくらいです。野菜の美味しい時を逃さずに食べていただくには、収穫してすぐに送れるのが良いと思います。ですので、基本的には季節の野菜セットを宅急便でお送りする(収穫してすぐに出荷し、翌日に届く)というスタイルをとっています。  旬の野菜は、人の五感や心も満たすことがあり、その生活を豊かにするものと信じています。

大きな機械を使わず、手仕事の良さを活かして成り立つ農業

 例えば、トラクターで畑を全面耕耘した場合、畑の土の表層にいる小さな生き物たちは、死んだり生活する場所がなくなったりします。耕耘は土に十分な空気を供給できるので、短期的な野菜の成長にとってはとても効率的な方法です。けれど私たちは、様々な生物の営みの中で野菜が共に育ち、長期的に畑の生物層が豊かになることをイメージして農業をしていますので、小さな生物たちに大きな影響を与える機械を使用しないことにしました。主に鍬や鎌、スコップなどの体に馴染む道具を利用して、手仕事を中心に農業をしていきます(草の管理には草刈り機や管理機を使用することがあります。収穫や管理作業には車を使用します)。とても非効率な方法ですが、長期的に見て、野菜の味や質が良いものに、生命力に溢れるものになっていくと考えています。

化学肥料・農薬・動物性の堆肥を使用しない

秋 見事な殿様バッタで賑わう

 土壌の栄養バランスや生態系に与える影響が大きすぎるものは使用しない方が良いと考えています。化学肥料・農薬は、作物だけの成長を促し、病気、虫や雑草をコントロールできる優れたものだと思います。また、これまで私たちはそれに生かされ、豊かで自由な時間を得た世代だと思っています。現代の農業を否定するものではありません。
 けれど私たちは、野菜が本来持っているかがやき、生命力を最大限引き出していきたいと思っています。利益や効率、生産量などを優先しすぎることなく、私たちにちょうど良い暮らしを大切にしたいと思っています。それは、農業と小さな生き物たちの暮らしの共存を考え続けることで成り立つことと考えています。私たちは、化学肥料や農薬に頼る農業とそれらを使用しない農業とでは、畑の生物の種類や量、豊かさが異なることを知っています。私たちは非効率であっても様々な生命と共に歩める方法を探したいと思っています。
 動物性の堆肥については、野菜の生育を促進したり、土壌の物理性を改善したりするメリットがありますが、作物の病気が増えたり、特定の虫などが大量発生したり、多量に使用することで硝酸態窒素(※1)が過剰に作物に吸収されてしまったり、動物の飼料に使われる成分(※2)を把握しきれないという危険性もあると考えています。

 お借りした畑がかなり痩せていて、野菜が成長できない場合は、畑の外から持ち込んだ有機物(コーヒー殻やお茶殻など)でできた植物性の堆肥を使う、雑草を米糠や油粕と混ぜて堆肥化して使うことがあります。
 極力小肥で畑の循環の中から生まれる有機物(雑草など)を使うのが私たちにとっては一番理想的であり、そのような循環をイメージして農業を続けています。

※1 硝酸態窒素:植物に必要な栄養素として窒素があり、その内植物が栄養素として取り込める形になった窒素成分のこと。植物が成長する上で必要な成分であるが、過剰に畑に入れると、必要以上に植物の個体内にとどまってしまい、人体にとっても良くないという情報がある。諸説あり。

※2 成分:この文章では主に畜産業で使用される「抗生物質」をさしています。

豊かな土を守る

春分の頃 オオイヌフグリ

 豊かな土には、さまざまな種類の雑草が生えてきます。様々な種類の雑草の根っこには、さまざまな種類の微生物が暮らしています。豊かな土から生まれる、豊かな生態系。私たち人間も生態系のほんの一部だと考えます。
 土を守るという表現もどこかおこがましい気がしますが、人間の行い(農業のスタイル)によって、畑の生態系や物理性はとても大きく変化しているのは事実です。例えば、雨がたくさん降った日の翌日、機械でよく耕した畑では、歩くことができないくらいぬかるみます。ところが雑草がたくさん生えた畑には、翌日でも畑を支障なく歩くことができます。雑草の根が雨を吸収してくれたり、その根の周りの微生物が土の構造を変えているからです。排水性があり、かつ保水力がある「団粒構造」の土によって雨が多量に降っても影響が出にくいようです。団粒構造の土は、昆虫・ミミズ・小動物の分泌物、作物の根から排出される分泌物、土壌微生物からの分泌物、カビの菌糸などが接着剤の働きをして生成されると考えられています。

 人間の行いが、生きる生物と死ぬ生物を分けているといってもよいかもしれません。どのような農業をするかで、共に生きる生物も変わってしまうということ。特に土の表層15cmに多くの微生物が暮らしていると言われています。私たちにとって小さな作業の違いも土の表層にとっては、大きなインパクトを与えてしまうのです。私たちはそのことを深く考え続け、これから先の農業に活かしていきたいと思います。

手仕事の丁寧さ と 顔の見える関係

 手仕事中心の方法では、たくさんの野菜を効率的に生産できませんが、限られた収量だからこそ、大切な人たちへ丁寧に野菜を贈りたいと思います。
 ただ生産者と消費者という関係ではなく、私たちの取り組みには信頼関係や安心感など付加価値があると思っています。あの人たちが作った、あの畑で取れた野菜なんだ、今はどんな風景になっているかな、昨日収穫されたんだな、春には何が届くのかな、などと想像できることがとても大切だと思っています。
 大切な人に送る贈り物のように、一つひとつ野菜セットをつくっていきたいと思います。私たちは、私たちの価値観や生き方を応援してくださる方々とともに歩んでいけたらと願っております。

 また、応援してくださるお客様とのコミュニケーションから大きな気づきや学びを得ることができます。野菜の生育を見守る時間の先には、それらをお客様と共有する時間があったらよいと考えています。日々の忙しさからお客様と十分なコミュニケーションが取れないこともしばしばですが、 土や野菜、料理の話をしたりする時も忘れず大切にしていきたいと思います。

雨水 紅菜苔(こうさいたい)寒い冬を越えた野菜の旨みは格別です。

畑の管理、野菜の生育を見守る時が大切

立春 子どもたちと収穫した芽キャベツ。

 土づくり、種まき、畑の管理、収穫、出荷調整、発送、資材のメンテナンスや整理、時には営業など、農家は年中忙しく、時にイベントなどが重なり出荷ばかりしている、気づけば何日も畑を見ていないといういことが起きかねません。何に時間をさくか、時間をかけるかで野菜の育ちが変わっていきます。
 私たちの最も大切な仕事は、畑を管理して種をまき、野菜の生育を見守ること。気候に敏感に、生育の状態を見て、その時にできる一番良いことを施し、良い状態で出荷することだと考えます。 いつも畑の野菜、畑の雑草や生き物たちから学ぶスタンスを大切にしたいと思います。