2023年、神奈川県にて夫婦で農業を開始。藤沢市北部・海老名市が位置する神奈川県県央地域は温暖な気候で、一年を通して露地で四季折々の野菜が収穫できます。年間約60種類の野菜を多品種揃え、野菜セットづくりをしています。
 大きな機械を使用せず、小さな道具を使い、手作業を中心にしながら日々丁寧に野菜に向き合っています。主に畑から生まれる有機物を利用して、豊かな生態系の中で野菜が共に育つ農業をイメージしています。基本は大きく土を動かさない(トラクターなどの大きな機械で耕さない)、雑草を利用することで土壌の表層にいる微生物が豊かになると考えています。
 私たちの野菜は、不揃いで小さいものも多く収量は限られますが、ゆっくり時間をかけて育ち、生命力に溢れ、中身が詰まっていると感じています。

《農業の魅力》 
 私たちは農を中心にした生活に大きな魅力を感じています。
 その一つは、土に生きる微生物のことです。健康な野菜は、健康な土から育まれ、健康な土は、目には見えないほどの小さな微生物たちが育みます。しかし、その微生物たちの生態や役割の詳細は現在までほとんどわかっていないのです。スプーン一杯の畑の土には億単位の微生物が暮らしていると言われます。私たちの生活は実は未知の微生物たちによって支えられている事実。本格的に農に携わるまで、私たちも知らなかったことの一つです。

有機物を分解するのに、細菌類、放線菌、糸状菌などの微生物たちがはたらく


《大切な価値観》

 畑では微生物だけでなく、雑草、土壌動物、昆虫、動物たちといった様々な生き物が野菜の成長を助けてくれると同時に、命を輝かせて子孫を残し、死んでいきます。ダイナミックな命のやり取りが行われる自然の中にいると、私たち人間の営みは本当に小さく頼りないものだと思うことがよくあります。人間は何も生み出すことはできず、ただ恵みを受け取るに過ぎないのかもしれません。人は自然に圧倒され、時に畏れ、なんとかしてコントロールしようともがくことがあります。自然は人間都合でコントロールしようとすれば、逆にバランスを崩していくことが多いように思います。
 農作業の一つひとつも、畑の生態系に大きな影響を与えています。最近では農業は自然に優しい、サステナブルという側面でも取り上げられがちですが、どれだけ気をつけても他の生命の犠牲の上に成り立つのが農業でもあると思っています。手段を選ばずに他の生命を排除したら、野菜は見た目には作りやすくなるかもしれません。実際、人間は化学肥料と農薬を使って生産量を劇的にアップして、繁栄してきたとも言えるでしょう。しかし、大きくて効率的かつ確実な農業だけが未来をつくるとは限らないと思います。私たちのような小さな農家が担う役割があると思っています。私たちが使うものを選び、畑の管理の仕方に気をつけ、農業を続けることによって、畑ではある程度豊な生態系が回復することがわかっています。

《農業のスタイル、イメージするもの》

 私たちの農業のスタイルは、自然を感じ、深く関わりをもちながら、その恵み、魅力を最大限に惹き出していくイメージをしています。惹き出すより本来備わっている魅力に気付いていく作業なのかもしれません。
 どうすれば、自然と共にありながら、私たちが困らずに暮らしていけるだけの作物を受け取ることができるのか。農を中心にした生活は、自然のサイクルや理不尽さ、強さなどを深く感じ、私たちを含む人の行いや考え方、価値観について問うきっかけになると思っています。

 2021年、家庭菜園の市場規模は2,396億円となりまだ成長を継続しているそうです。これは、人々が物質的な量ではない、新たな価値観を見出そうとしているアクションなのかもしれません。家庭菜園をする多くの人は、意外にお金がかかることや土地を借りるハードルが高いことなど実際に作る大変さを知り、一方で自分で収穫して食べる格別の喜びを味わっているはずです。家庭菜園のような農がある暮らしが、多くの人に触れられるようになることで、様々な気づきや新たな価値が生まれると思っています。私たちのような小さな農業の役割の一つには、農のある暮らしをしたい人たちと、その新たな価値について共に確認していくことがあると思います。
 少し先の未来に小さな答えが見えてくるのではないかと思っています。小さな農業を通じて私たちなりの答えを探し続けたいと思っています。

《ごあいさつ》

 私たちは生命の不思議を感じながら、生きることに感謝し続けられたら、どんなに幸せなことかと思うのです。

 人が自然の中でなんとか生きようとする、技、知恵や工夫といった様々な営み、美、そして時に訪れる安らぎ。それらは農の暮らしや手仕事にあらわれていくものだと信じています。

 ごきげんやさいを通じて、私たちの農を中心にした暮らしを共に感じ、味わっていただけたら幸いです。

 よろしくお願いいたします。 

晩秋 里芋の葉の裏で休む オオカマキリ
菊芋の花

Photo : KENTA OCHIAI

運営者

熊岡功丞 くまおか こうすけ

ダンスが好き。音楽を聴くのが大好きで、
スピーカーと共に移動することが多い。
 見かけによらず、頑固で一本気。
体を動かすのが好き、何かを読むのは苦手。
  凝りだすと止まらない 失敗して学ぶタイプ。
  人は人と思っていて、自らはあまり干渉しない。


熊岡那由 くまおか なゆ


発芽した芽を眺めるのが好き。旅好き。
ごろごろしながら読むのが好き。
おいしいものを食べることが好き。感動する映画が好き。
丁寧に準備するタイプだが、整理整頓が苦手。
人見知りだが、心のこもった交流を大切に思っている。

私たちの二人の恩師

相原成行さん(相原農場/神奈川県藤沢市)
http://www.aihara-farm.org/

「農業は日々のこと、有機農業は生産者と消費者が支え合って両輪でやっていく。農作業もリズムです。」
 相原師匠は、「100年続く農業」を掲げ、地域の有機農業のリーダーとして、数多くの農業者を輩出。功丞は2023年5月末、相原農場の研修を1年間受け卒業予定。忙しさの中に確かな喜びがある農家の一年を体験させていただく。その卓越した職人技、人柄や優しさ、時にはちっぽけな人間のおろかさを受け入れる潔さにも多大な影響を受ける。

久保寺 智さん(久保寺農園/神奈川県小田原市)
https://www.kuboderafarm.com/

「農業は自らの道であり、自分の心に聞いて決めることが大切。わからないこと、理不尽なことも多けれど、それも楽しみつくせるとよいですね」
 ミニマムでハイブリッドな農業モデルを10年以上実践され、今では様々な農業者の相談が絶えない久保寺師匠。自然と深くふれあい、よく観察し、思慮深く、尊敬し、いつも謙虚で丁寧な方。私たちにも持てる叡智を惜しげなく授けてくださった恩師。私たちは、農業の技術だけでなく、その生き方、考え方や価値観、自然観、人間性に非常に影響された。